イギリスのサクソフォーン - Simon Haram サイモン・ハラーム
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プロフィール
1969年リバプール出身のサイモン・ハラームは、ギルドホール音楽院でジョン・ハールに師事し、一躍著名なサクソフォーン奏者、室内楽奏者の仲間入りをした。研ぎ澄まされたテクニックと様々なジャンルのサクソフォーン音楽へのアプローチは、まさに新世代の奏者と言ったところか。伸びのある艶やかな音色を持ち、独特のヴィブラートが魅力的でもある。
特に新作の初演を、リサイタルやレコーディングなどで高いレベルでこなしている。後進の育成や教育活動にも余念がない。
ロンドン・シンフォニエッタの首席奏者、マイケル・ナイマン・バンドのソリスト、ジョン・ハールの後任としてギルドホール音楽院教授職を務める。また、BBCラジオ3チャンネルへのレギュラー出演も行っている。
主なレコーディング(リリース年代順)
・on fire(black box BBM1001)
1. Heath, Dave デイヴ・ヒース - On Fire オン・ファイア
2. Muldowney, Dominic ドミニク・ムルドウニー - In a Hall of Mirrors 鏡の間にて
3. Heath, Dave デイヴ・ヒース - Coltrane コルトレーン
4. Carpenter, Gary ゲイリー・カーペンター - Sonata ソナタ
5. Gregory, Will ウィル・グレゴリー - Interference インターフェアレンス(干渉)
6. Bedford, David ディヴィッド・ベッドフォード - Backings バッキングス
クラリネット奏者クリス・クレイカーが立ち上げたblack boxレーベル最初のアルバム。個性的なジャケット写真と収録曲が目を引くが、ほとんど全てがイギリスの作曲家による作品、世界初録音(未確認)。ピアノとのデュオ、無伴奏ソロ、テープ伴奏と、編成も様々。ハラームの、デビューアルバムにかける意気込みが伝わってくるようである。
テクニックは想像を絶する。特殊奏法あり、高速パッセージありの高難易度譜面をさらりと吹きこなし、曲によって的確にそのフレージングを歌い分ける。夭折のチェリスト、ジャクリーヌ・デュ=プレに捧げられた「オン・ファイア」では情熱的な演奏をしたと思えば、コンピュータとの共演による「インターフェアレンス」や「バッキングス」ではどこまでも精確に音を当てはめていく、といった具合。「コルトレーン」での無伴奏ソロの存在感も、十分なテクニックあっての結果だろう。
曲自体の面白さも手伝って、特にソプラノサクソフォーンとテープのための「インターフェアレンス」を興味深く聴くことができた。この曲はハラーム自身に捧げられている。この曲についての詳しい解説はぜひ別項で行いたいと思う。
・alone...(black box BBM 1018)
1. Adams, John ジョン・アダムス - Consuelo's Dream コンシェエロの夢
2. Fitkin, Graham グラハム・フィトキン - Bob ボブ
3. Adams, John ジョン・アダムス - This is Prophetic 預言的
4. Arvo Part アルヴォ・パート - Spiegel in Spiegel 鏡の中の鏡
5. Fitkin, Graham グラハム・フィトキン - Watching ウォッチング
6. Nyman, Michael マイケル・ナイマン - If イフ
7. Nyman, Michael マイケル・ナイマン - Why ホワイ
8. Fitkin, Graham グラハム・フィトキン - Pam & Jim & Jim & Pam パム・ジム・ジム・パム
9. Bowie, David & Eno, Brian ディヴィッド・ボウイ&ブライアン・イーノ - Warsawa ワルシャワ
10. Adams, John ジョン・アダムス - Alone...again or at last
全体を通して、不思議な浮遊感が全体を支配する、イージー・リスニング的響きが心地よい。休日の昼下がりに、まどろみながら聴きたいアルバム。ハラームのサックスは、長いフレーズを見事に持続させ、曲の魅力を引き出しているように感じる。
…とは言っても、表面上の響きの平易さに流されていると、アルバムの本質をつかみきれない部分があるのも確かだろう。クレジットを見てみれば、現代イギリスを代表する作曲家のオンパレード。構成感、旋律、オーケストレーションなど、どの部分を切り取っても各作曲家のアイデンティティを感じ取ることができ充実している。中でもボウイ&イーノの「ワルシャワ」の存在感は抜群。ハラームのサックスも、ここぞとばかりに暴れまわっている。
・FRAME(black box BBM 1055)
1. Fitkin, Graham グラハム・フィトゥキン - Glass グラス
2. Nyman, Michael マイケル・ナイマン - The Piano Sings ザ・ピアノ・シングス
3. Fitkin, Graham グラハム・フィトゥキン - Frame フレイム
4. Glass, Philip フィリップ・グラス - Facades ファサード
5. Fitkin, Graham グラハム・フィトゥキン - Hard Fairy ハードな妖精
6. Sakamoto, Ryuichi 坂本龍一 - Forbidden Colours 禁じられた色彩
帯の解説によれば「1990年代を回顧するトリビュート・アルバム」と言うことで、同時代の作曲家たちによる作品を集めたアルバムだが、どの曲も優しい調性音楽だ。デューク弦楽四重奏やマリンバとの共演など、変化に富んだアルバムになっている。
フィトゥキンという作曲家は日本ではあまり知られていないが、調性音楽でありながらジャズやロックのイディオムを感じさせる作品が多い。どれもが大変にかっこいい曲で、とくに「ハードな妖精」におけるピアノとのスリリングな演奏は一聴に値する。「フレイム」はマリンバとのデュオで、両者の機動性を生かした浮遊するようなサウンドをもつ作品。
ナイマンの「ザ・ピアノ・シングス」は、映画「ピアノ・レッスン」のサウンドトラックを室内楽用にアレンジしたもの。坂本龍一の作品も目を引くが、ハラーム自身のオリジナル編曲による版で、ピアノ+弦楽四重奏+ソプラノサックスという編成で演奏されている。単なるポップス調の演奏ではなく、メロディラインに頼らずどちらも聴き応えあるレベルで演奏されているのには驚かされる。
・Michael Nyman: The Piano Concerto(Naxos 8.554168)
1. Nyman, Michael マイケル・ナイマン - Where the Bee Dances 蜜蜂が踊る場所
2. Nyman, Michael マイケル・ナイマン - The Piano Concerto ピアノ協奏曲
NAXOSレーベルからのナイマン作品集、そのサクソフォーン協奏曲にハラームの名前がクレジットされている。収録時間は、比較的短めだが値段も安い(\1,000未満で買える)。伴奏は湯浅卓雄指揮アルスター管弦楽団。北アイルランドを中心に活動している、近年注目を浴びているオーケストラである。
「蜜蜂が踊る場所」は前半でオーケストラのもたつきが散見されるが、中盤から後半にかけてのスピード感は見事。師であるハールの録音よりも一分以上早く演奏している。しっかりした表現で演奏されていながらも、どこか理知的、そして節度をわきまえた演奏で好感が持てる。
「ピアノ協奏曲」は映画「ピアノ・レッスン」のサウンドトラックをオーケストラとの協奏曲に再構成したもの。全四楽章からなり、それぞれの楽章には「浜」「森」「小屋」「解放」という映画のシーンを想起させるタイトルがつけられている。ピアニストは室内楽奏者としても有名なジョン・レネハン。
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