イギリスのサクソフォーン - 歴史・奏者


メールはこちら→kuri_saxo@yahoo.co.jp
メインページへ→http://www.geocities.jp/kuri_saxo/
「イギリスのサクソフォーン」メニューへ→戻る

黎明期〜20世紀前期・中期

 初期のイギリスのサクソフォン奏者としては、ウォルター・リア(1884? - 1981)やマイケル・クライン(1908 - 1966)の名が挙がるだろう。彼らは主にオーケストラなどでクラリネット奏者として活躍しながら、さらにサクソフォンを持ち替え楽器として演奏するマルチプレイヤーであった。ロンドンの音楽院でサクソフォンを教えたり、しばしばリサイタルなども開いていたようである。
 また、イギリスの作曲家レイフ・ヴォーン=ウィリアムズは自身の作品「交響曲第六番、第九番」に積極的にサクソフォンを取り入れたり、ウィリアム・ウォルトンの吹奏楽曲での応用、ベンジャミン・ブリテン「シンフォニア・ダ・レクイエム」におけるサクソフォンの導入など、イギリスのクラシック作曲家も他国と同様に、しばしばサクソフォンのクラシカルな側面に魅了されていたようだ。
 サクソフォーン・アンサンブルでは、マイケル・クラインが1941年に創設した四重奏団がライト・ミュージックのアレンジに積極的に取り組んでいた。1970年代には、ロンドン四重奏団やMyhra四重奏団が伝統的なフランス作品に取り組むとともに新作の初演もしばしば行うなど、そのころにようやく活発化の兆しが見えてきたようだ。
 以上のように、20世紀前半〜中期にかけてのイギリスのサクソフォン界は特に際立った動きはなく、むしろこの時期はミュール、デファイエに起因するフランスのサクソフォーン・ルネッサンスを横目にわずかな奏者が細々と演奏活動を続けていたといったところだろうか。それとも、ミュール〜デファイエの周辺が強すぎて他の記録はほとんど残っていないのか。いずれにせよパッとしない20世紀のイギリスのサクソフォーン界だが、1980年代、一人のヴィルトゥオーゾの出現により状況は一変する。

ジョン・ハール〜1980年代

 サクソフォーン奏者ジョン・ハールは始めジャズを学んでいたが、ロンドンとパリでクラシカル・サクソフォンの研鑽を積み、間もなく世界トップクラスのプレイヤーとして認知される。1988年にイギリスのBBCテレビ製作「A Man and A Sax」に出演し、800万人に及ぶ視聴者がこの番組を楽しんだ。イギリス国内はもとより、海外でも非常に高名な奏者の一人である。
 彼の活動は多岐に渡り、オリジナルの作曲、新作の初演、エルヴィス・コステロ等著名アーティストとの共演、マイケル・ナイマン・バンドなどにおける映画音楽への積極的な参加、ArgoレーベルやEMIからの積極的なレコーディングリリースなど、まさにイギリスの現代サクソフォーン界を象徴するようなスーパー・サクソフォニストと言える。
 1988年から1993年まではギルド・ホール音楽院の教授職を務め、サイモン・ハラーム他優秀なサクソフォーン奏者を数多く世に送り出してきた。現在イギリスで活躍しているサクソフォーン奏者のほとんどが彼の門下生であることから、演奏者としてだけでなく指導者としてのハールの優秀さも伺えよう。
 ジョン・ハールの出現によりイギリスのサクソフォーン界は一変したが、特に内外の作曲家による新作の初演や、自作のレコーディング、即興を取り入れたパフォーマンスなど、イギリスのサクソフォーン界を特徴付ける代名詞のほとんどが、彼によって考案されたものであるということは驚嘆に値する。

多彩な奏者〜1990年代から21世紀へ

 ジョン・ハール以降最も有名なイギリスのサクソフォーン奏者としては、サイモン・ハラームが挙げられよう。Naxosからリリースされたマイケル・ナイマンの作品集においてソリストとしてクレジットされているのは記憶に新しい。black boxレーベルの旗艦アーティストとして数々の新作の初演、また、ギルド・ホール音楽院教授職やマイケル・ナイマン・バンド奏者も務めるなどジョン・ハールの後継者として多岐にわたる活動を展開している。
 ジェラルド・マクリスタルも忘れてはなるまい。アルバム「meeting point」で鮮烈なCDデビューを飾った彼だが、安定したテクニックと美音を持ち合わせた才能ある奏者である。コウヒーの作品集にも参加している。他にスティーヴン・コットレル、クリスティアン・フォーシャウやロブ・バックランドといった若い奏者も、積極的に作曲やレコーディングを行い、内外にその存在をアピールしている。
 ジョン・ハール自身が結成したジョン・ハール四重奏団(活動停止中とのこと)を始め、アポロ四重奏団、デルタ四重奏団、クォーツ四重奏団など、有名な奏者のほとんどが定常的に四重奏での活動も行っており、固定的なレパートリーとしてイギリスの作曲家の作品を多く取り上げている。
 ジョン・ハール以降鮮やかに開花したイギリスのサクソフォーンだが、フランス、日本、アメリカ優位のサクソフォーン界にあって独自の路線を展開しつつ世代交代や発展を繰り返してきた。日本のサクソフォーン奏者雲井雅人も述べているように、オリジナリティ溢れるイギリスのサクソフォーン界が世界を席巻する日も、あるいは近いのかもしれない。

「イギリスのサクソフォーン」メニューへ→戻る