イギリスのサクソフォーン - イギリスのサクソフォーン四重奏団
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John Harle Saxophone Quartet ジョン・ハールサクソフォーン四重奏団
−Harle, John ジョン・ハール, Soprano Saxophone
−Haram, Simon サイモン・ハラーム, Alto Saxophone
−Forshaw, Christian クリスチャン・フォーシャウ, Tenor Saxophone
−Findon, Andy アンディ・フィンドン, Baritone Saxophone
メンバーを見るかぎりおそらくイギリス最強の四重奏団だろう。ジョン・ハールを筆頭に、ほぼ全員が独奏者としても名を馳せているプレイヤーばかりだ。以前はジョン・ハールの公式ページにこの四重奏団のプロフィールが掲載されていたのだが、最近の活動休止に伴い、わずかにハール自身のプロフィールに「John Harle Saxophone Quartet」の名を残すのみである。
・アンディ・フィンドン氏公式ページの抜粋録音より
http://www.flute.f2s.com/index.htm
1. Desenclos, Alfred アルフレッド・デザンクロ - Quatuor Mov2 (extract) 四重奏曲より第二楽章(抜粋)
2. Piazzolla, Astor アストル・ピアソラ - Bordel1900 from "Histoire du Tango" (extract) 「タンゴの歴史」よりボーデル1900(抜粋)
3. Weill, Kurt クルト・ワイル - Ballade from "Threepenny Opera" (extract) 「三文オペラ」より快適な生活のバラード
CDは出版されておらず休止前の活動の様子はほとんどわからないが、アンディ・フィンドン氏のWebページからプライヴェート録音(ライヴ録音だろうか?)を上記の三曲だけ聴くことができる。いずれもほんの90秒程度の抜粋録音。
聴いた第一印象は「豪快」。どの曲もサクソフォーン四重奏のレパートリーとしてはごくスタンダードなものばかりであるが、既存の解釈にとらわれない、表現の幅の広さに驚かされた。基本的にソプラノ、バリトン主導ながら随所で内声部の動きが強調され、特にピアソラとワイルでのうねるような派手なパフォーマンスには心奪われた。ジョン・ハールのソプラノサックスは大変な存在感で、随所で挟み込まれるグロウが効果的に響いている。CD出してくれないかな…。
※「ジョン・ハールサクソフォーン四重奏団」項の作成にあたって、ハール氏のマネージャーのジェーン・ウォード女史、サイモン・ハラーム氏とアンディ・フィンドン氏にご教示を受けました。この場を借りて御礼申し上げます。
Apollo Saxophone Quartet アポロ・サクソフォーン四重奏団
−Redpath, Tim ティム・レッドパス, Soprano Saxophone
−Buckland, Rob ロブ・バックランド, Alto Saxophone
−Scott, Andrew アンドリュー・スコット, Tenor Saxophone
−Rebbeck, Jonathan ジョナサン・レベック / Grefory, Will ウィル・グレゴリー, Baritone Saxophone
イギリスを代表する四重奏団の一つ。1992年第七回東京国際音楽コンクール室内楽部門第一位。フランス物一辺倒のこの業界にあって、既存のレパートリーに囚われずに新作の委嘱と初演を繰り返している。新作の中には新たなレパートリーとして根付く作品も多く、ナイマン「トニーへの歌」やトーク「ジュライ」は彼らの委嘱によるものである。
全員がジョン・ハールの門下生としてギルド・ホール音楽院で学んだ。アルトのロブ・バックランドはソロCDをリリースするなど、全員が十分な技量をもつソリストであるが、技術を技術のためにだけ使うことのない姿勢が、豊かな音楽表現を可能にしているのだろう。
・First & Foremost(Argo 443 903-2)
1. Corea, Chick チック・コリア - Children's Songs チルドレンズ・ソング
2. Nyman, Michael マイケル・ナイマン - Songs for Tony トニーへの歌
3. Bedford, David ディヴィッド・ベッドフォード - Fridiof Kennigs フリディオフ・ケニングス
4. Gregory, Will ウィル・グレゴリー - Hoe Down ホー・ダウン
5. Powell, Roy ロイ・パウエル - Bow out ボウ・アウト
唯一Argoから出版されたアポロ四重奏団のアルバム。ジャズ・ピアニスト&作曲家としても有名なチック・コリアの「チルドレンズ・ソング」が目を引くが、サクソフォーン四重奏という形態を生かした、ピアノソロにくらべて多様性ある演奏になっているのが面白い。「トニーへの歌」は様々な団体の録音が出ているが、このCDの演奏が一番だろう。第一楽章のアルトの歌い上げ始め、曲にどっぷりとつかった密度の濃い名演。この録音を聴くだけでも十分価値あるCDと言えるだろう。
メンバーの師匠であるハールと作曲家グレゴリーが参加した「ホー・ダウン」は、西部劇を思わせるようなスピード感あふれる作品。中盤に挟み込まれた唸るバリトンサックスのソロは一聴の価値ありだろう。吹いているのはグレゴリー氏自身だろうか?
瑞々しさと表現力がバランスよく配置されたアルバムになった。イギリスの四重奏のCDの中でも、特にオススメしたい一枚である。
・words & pictures(ASQ002)
1. the four seasons 四つの季節
2. Journey Across the Impossible 不可能を超えて
バリトン奏者にウィル・グレゴリーを迎え、メンバー自身が作曲した作品を演奏するという斬新なコンセプトのアルバム。例えば、「四つの季節」は四人のメンバーがそれぞれの季節を担当しているが、シンセサイザーを使ったり、ミニマル風のパッセージを入れたりと個性の違いが表れていて面白い。「不可能を超えて」は一時間ほどのサイレント映画につけられた音楽をCD用に再編しなおした曲集。
自主制作盤ならではの真新しいコンセプトによるアルバムだが、そこはアポロ四重奏団、確かな技術に裏付けられた音楽の流れが美しい。比較的古い楽器を使用しているせいだろうか音色は独特、これは実際聴いて見なければ分からないだろう。
下記のアルバムを含めて、アポロ四重奏団の自主制作盤は彼らのWebサイトから購入できる。また、メンバー自身の作曲による楽譜を購入することもできるようである。発売元はAstute Music、CDを注文したときは約一週間で到着した。
・worksforus(ASQ003)
1. Torke, Michael マイケル・トーク - July 七月
2. Bennett, Richard Rodney リチャード・ロドニー・ベネット - Saxophone Quartet サクソフォーン四重奏曲
3. Mintzer, Bob ボブ・ミンツァー - Quartet No.1 四重奏曲第一番
4. Talbot, Joby ジョビー・タルボット - Blue Cell ブルー・セル
5. Fitkin, Graham グラハム・フィトゥキン - Hurl
6. Gregory, Will ウィル・グレゴリー - Scintillation きらめき
7. Gregory, Will ウィル・グレゴリー - High Life ハイ・ライフ
アポロ四重奏団の自主制作アルバム第三弾。アルバムタイトルが示すとおり、アポロ四重奏団が委嘱・初演した作品をレコーディングしたアルバム。トークの「七月」はすでに欧米ではサクソフォーン四重奏の有名なレパートリーとして位置づけられており、演奏会やCDで耳にする機会も多くなってきたが、アポロ四重奏団の演奏はそれらの規範となるような充実した演奏。鮮やかなスピード感と適度な楽器間のバランスが緻密に織り成される様は音の幾何学芸術といった趣だ。続くベネット、ミンツァーは大曲だが、作曲家の個性ある響きのおかげで飽きずに聴くことができる。ミンツァーはジャズサックス奏者としても有名だが、どんな曲なのかと構えて聴くと意外と肩透かしを喰らうかもしれない。
残響の比較的少ない録音だが、安定度は抜群だしなにより音色がいい。アポロ四重奏団がもつ音色を最大限に引き出した作品であることを実感できる。どの曲も今後のサクソフォーン界の重要なレパートリーとして広まっていく可能性を持つだけに、見過ごせないCDである。
Delta Saxophone Quartet デルタ・サクソフォーン四重奏団
−Cottrell, Stephen スティーヴン・コットレル / Forshaw, Christian クリスチャン・フォーシャウ, Soprano Saxophone
−Whyman, Peter ピーター・ホワイマン, Alto Saxophone
−Brady, Gareth ギャレス・ブラディ, Tenor Saxophone
−Caldwell, Chris クリス・カルドウェル
おそらく現在のイギリスでアポロ四重奏団と双璧を成す団体が、このデルタ四重奏団である。1984年にコットレルを中心に創設され、以来ブライヤーズ、フィトゥキン、ライリーといった同時代の作曲家の作品を多く取り上げる活動を行ってきた。
現在、若い作曲家の作品も積極的に取り上げており、Society for the Promotion of New Musicとのコラボレーションによって様々な作品の初演が多い。アンドリエセンやクラースといった、オランダやドイツの作品にも取り組んでいる。
現在はコットレルに代わりショーシャウがソプラノを務めている。
・minimal tendencies(Clarinet Classics CC0024)
1. Reich, Steve スティーヴ・ライヒ - New York Counterpoint ニューヨーク・カウンターポイント
2. Glass, Philip フィリップ・グラス - Mishima ミシマ
3. Bryars, Gavin ギャビン・ブライヤーズ - Alaric I or II アラリック I or II
4. Nyman, Michael マイケル・ナイマン - Songs for Tony トニーへの歌
5. Riley, Terry テリー・ライリー - Tread on the Trail トレッド・オン・ザ・トレイル
タイトルどおり異様な構成のファースト・アルバム(玄人向け)。基本的な音形が繰り返し出現する、いわゆる「ミニマル・ミュージック」ばかりを集めたCDである。ただし難解な現代音楽というわけでもなく、調性が感じられる耳に優しい響きが印象的だ。メンバーは各々比較的穏やかなサウンド作りをしており、ところどころサックスの凶暴な一面が聞きたいと思ってしまうのは、ないものねだりだろう。
のっけから「ニューヨーク・カウンターポイント」での、多重録音による不思議な響きが耳に残る。「トニーへの歌」はアポロ四重奏団の演奏と比べるとまるで別の曲のように聴こえるが、繰り返し聴いていくと意外にも団体ならではの「歌心」が感じられて興味深い。「ミシマ」のサウンド作りは、曲の性格上このアルバムでもっとも良い相性を呈しているようだ。
・Facing Death(FMR Rocords FMRCD104-C0502)
1. Fitkin, Graham グラハム・フィトゥキン - STUB
2. Alvarez, Javier ジャヴィエ・アルヴァレ - Acordecon de Roto Corazon 壊れた心のアコーディオン
3. Andriessen, Louis ルイ・アンドリエセン - Facing Death 死に向かって
4. Fox, Chris クリス・フォックス - Concurrent Air コンカレント・エア
5. Duddell, Joe ジョー・ダドゥル - Circle Square サークル・スクウェア
どの曲も同時代の作曲家による音楽。しかし聴きづらい不協和音はあまり目立たず、むしろジャズの影響下にある音楽や、独自の美意識による和声の重なりなどを興味深く聴くことができる。デルタ四重奏団の演奏もかなり健闘していて、どれもレベルの高い曲ながらタテ合わせだけに留まらないグルーヴ感を表現していて見事。
アルバムタイトルにもなっている「死に向かって(フェイシング・デス)」は、もともと弦楽四重奏のための曲を、オーレリア四重奏団が作曲者に委嘱して、サクソフォーン版が誕生した。数年前のトルヴェール・クヮルテットとオーレリア四重奏団の合同演奏会でトルヴェールが演奏したという記録もある。フィトゥキンの「STUB」はクォーツ四重奏団も録音しているが、ダイナミクスなど個性ある解釈をしている部分もあり、聴き比べてみると面白いだろう。
余談ではあるが、ライナーノーツの中に、コンサートホール、スタジオだけでなく街中や体育館で演奏するデルタ四重奏団のスナップが納められていた。こういう質の高い音楽を聴衆の身近なところに提供していく姿勢は、すばらしいと思う。
Quartz Saxophone Quartet クォーツ・サクソフォーン四重奏団
−Stevens, Paul ポール・スティーヴンス, Soprano Saxophone
−Forshaw, Christian クリスチャン・フォーシャウ, Alto Saxophone
−Grant, Bradley ブラッドレイ・グラント, Tenor Saxophone
−Foster, Mick ミック・フォスター, Baritone Saxophone
ギルドホール音楽院で学んでいたジョン・ハールの門下生らによって1994年に結成された四重奏団。これまでにセントジョーンズ・スミス・スクウェア、サウスバンクセンターなどでリサイタルを行い、BBCラジオ3チャンネルにも出演した。
フォーシャウを筆頭に全員がフリーランス奏者としても活躍し、ロンドン交響楽団やフィルハーモニア管との共演の経歴を持つ。
・faces(black box BBM1024)
1. Nyman, Michael マイケル・ナイマン - Songs for Tony トニーへの歌
2. Carpenter, Gary ゲイリー・カーペンター - Une Semaine de Bonte 快適な一週間
3. Bach, Johann Sebastian ヨハン=セバスチャン・バッハ - Contrapunctus III コントラプンクトゥス第三番
4. Levine, Alexander アレクサンダー・レヴァイン - Faces フェイス
5. Fitkin, Graham グラハム・フィトゥキン - STUB
6. Buckley, John ジョン・バックリー - Saxophone Quartet サクソフォーン四重奏曲
バロック形式にネオ・ロマンティックスタイルの和声で書かれた「フェイス」を中心に構成されたアルバム。「STUB」などで見せるドライブ感は白眉だし、かと思えば緩叙楽章では慎重に音楽を運んでいったりと、クォーツ四重奏団のスキルの高さを少なからず窺わせる演奏内容になっている。
残響が多い録音は少し気になるが(black boxレーベルの方針だろうか)バッハや「フェイス」等、一部の曲ではかえって効果的でもある。バッハでの、ピアノを基調とした曲作りは興味深く聴くことができた。
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